猛暑の日々が続いております。職場の熱中症対策に気を抜けない時季です。
さて、小職の書いた記事が「かわさき労働情報第2057号」(8月1日発行)に掲載されましたので紹介させていただきます。
1.マイナンバーとは
今年10月からマイナンバー記載通知書(「通知カード」)が住民票の住所に簡易書留で送られてきます。番号は12ケタで、現在使用されている住民票コードもそうですが、家族内で番号が連番になるわけでなく、性別、年齢、住所などを推測することはできません。
当面、社会保障、税、災害対策の行政の3分野で利用されます。現在、年金給付や国民年金・国民健康保険料の免除等々の申請には、役所に出向いて証明書等の発行を受け申請書に添付するなど大変な手間ですが、いずれこれらの書類提出が省略できるようになります。また、「マイポータルサイト」と呼ばれるWEBページが開設される予定であり、パソコンを使って自分の情報が確認できるようになります。また、将来はその機能拡充により、個人に合わせて健康診断の通知が届くなど、公的サービスの向上が期待されています。
利用開始は来年(平成28年)1月以降ですが、税の手続は平成28年分として主に平成29年2月から3月の確定申告期になります。また、厚生年金・健康保険の手続は平成29年1月以降とされています。
2.企業で本年中に準備すべきこと
これまで個人情報保護法では、5,000人超の個人情報を有している事業者がその適用対象でしたが、マイナンバー制度では、個人情報を取り扱う企業(個人事業主も含む)の全てがその対象となり、漏えいの未然防止のためこれまでより重い罰則が規定されました。適用されるのは漏えい等を故意に行った場合ですが、過失での情報漏えいであっても民事上の責任や企業としての信頼低下の恐れがあります。
各企業は税と社会保険の手続でマイナンバーを使います。従業員やその家族のマイナンバーを取得・保管し、書類への記載、関係行政機関への提出が必要です。パート・アルバイトの多い企業(小売店など)や謝金の多い企業(出版関係など)などは取り扱うマイナンバーが多くなるため、特に注意と管理体制の整備強化が必要です。
なお、これを機会に、各行政機関でも税や社会保険の書類の様式が変わり、マイナンバーの記載欄が追加されます。マイナンバーの取得・保管のため、企業所定の個人情報関連書類様式の変更についても、予め検討し、準備しておく必要があります。さらに、源泉徴収事務、社会保険事務や関連データの入力などを税理士や社会保険労務士など外部に委託している企業は書式変更に伴い、必然的にマイナンバーに関する業務委託も行われることになります。委託先に安全管理措置を遵守させるために契約の見直しや、制度スタート後には定期的に委託先から特定個人情報※の取扱い状況の報告を受けるなどの対応が必要になります。
※マイナンバーをその内容に含む個人情報。生存する個人のマイナンバー自体も特定個人情報です。
制度スタートまでにおよそ次の準備が必要とされます。
①業務の把握(社内業務の棚卸) ②対応予算の確保 ③基本方針、組織体制の整備等安全管理措置の策定≪後述≫ ④システム改修 ⑤(IT業者・税理士等との)委託契約等の見直し ⑥業務手順見直し ⑦規程・マニュアル等整備 ⑧従業員教育 など |
「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業所編)」とそれに関するQ&Aを参考に、準備を遺漏なく進めて下さい。(特定個人情報保護委員会ホームページ http://www.ppc.go.jp/legal/policy/)
3.従業員等からのマイナンバーの「取得」
各企業によるマイナンバーの取得は法律で定められた税と社会保険の手続に使用する場合のみ可能です。それ以外の目的で取得することはできません。また、マイナンバーの取得の際にはあらかじめ利用目的を特定して通知又は公表することが必要です。通知の方法としては、社内LAN、就業規則への明示等が考えられます。
具体的に利用する事務
税務 |
・従業員への給与、有識者への講演料、地主への地代の支払いに関して生じる源泉徴収票・支払調書などの作成事務 ・従業員およびその扶養親族を記載した扶養控除等申告書の提出 |
社会保険・雇用保険 |
・被保険者資格取得届の年金機構、市区町村や健保組合への提出 ・雇用保険被保険者資格の取得・喪失届のハローワークへの提出 |
マイナンバー取得に当って、本人確認は「なりすまし」防止のために証明書のコピーをもらうなどマイナンバーの確認と身元の確認を厳格に行なう必要があります。
本人確認は、「個人番号カード」※があれば、1枚でマイナンバーの確認と身元の確認が可能です。「個人番号カード」を取得していない場合は、「通知カード」でマイナンバーを確認し、運転免許証やパスポートなどで身元の確認を行うこととなります。採用時に運転免許証等によってきちんと本人確認を行っている従業員の身元確認は、書類の提示は不要で、対面確認で構いません。
※「通知カード」送付の際に同封される申請書に写真を添付して市区町村に申請して取得。発行は平成28年1月以降。
マイナンバー取得時のポイント
内定者からの取得 |
内定者は未だ雇用関係がなく、辞退もあり得るためマイナンバーの提供を求めることはできない。確実に雇用される場合(正式内定通知と入社に関する誓約書を提出した場合等)に、その時点で。 |
派遣労働者からの取得 (派遣先) |
派遣先企業ではマイナンバーを利用する事務は発生しないので、マイナンバーの提出を求めることはできない。 |
派遣労働者からの取得 (派遣元) |
原則として、登録者のマイナンバーの提供は求めることができない。ただし、登録時しかマイナンバーの提供を求める機会がなく、実際に雇用する際の給与支給条件等を決める等、近い将来の雇用契約が成立する可能性が高い場合は、本人確認をした上で取得することは可能。 |
海外在勤者からの取得 |
日本国籍を持つ人でも、住民登録がないとマイナンバーは付番されない。海外事業所等に勤務している従業員には帰国後住民登録を行うとマイナンバーが通知されるのでその後に提供を受ける。 |
外国人労働者からの取得 |
マイナンバーを有する外国人労働者や技能実習生からも、利用目的を通知した上でマイナンバーの提供を受けることとなる。 |
従業員等の扶養親族 |
従業員等が、扶養控除等申告書に扶養親族のマイナンバーを記載して企業に提出する時は、扶養親族の本人確認は、扶養控除等申告書を記載・提出する従業員等が行う。 |
4.マイナンバーの「利用・提供」
マイナンバーを社員番号や顧客管理番号などとして利用することはできません。法律で認められた目的以外での利用はたとえ本人の同意があったとしても禁止されています。むやみに提示しないよう、従業員にも周知が必要です。金融機関が税の手続で提供を求める場合を除き、勤務先以外の企業からマイナンバーの提示や記載を求められることはありません。
同一グループ内の企業間で出向・転籍などにより給与支払者(給与所得の源泉徴収票の提出義務者)が変更になった場合に当該従業員のマイナンバーを受け渡す「提供」は、提供制限に該当します。出向・転籍先は改めて本人からマイナンバーを取得することになります※。
※ただし、グループ会社間で従業員等の基本情報を共通データベース化している場合は、所属会社以外はマイナンバーを参照できないようアクセス制限すれば良いとされます。
5.マイナンバーの「保管・廃棄」
従業員から提供を受けたマイナンバーは、雇用関係が続く限り保管し続けることはできます。法令で定められた保存期間を経過した場合など、必要がなくなったらマイナンバーを廃棄または削除するというルールを取扱い担当者に浸透させ、また保管期間経過後における速やかな廃棄または削除が可能なシステムを構築しておくこと、廃棄や削除を前提に、書類やデータのファイリングの仕方などを工夫することが求められます。また、削除・廃棄日時、マイナンバーの範囲、担当者、削除・廃棄方法等の記録を残す必要もあります。
周知のため、これを機会に文書管理規程等を整備され、また復元できない廃棄方法も検討し、準備することが大切です。
6.「安全管理措置」
マイナンバー法では、従来の個人情報保護法よりも厳しい保護措置を求めています。企業は、特定個人情報等の漏えい、滅失または毀損の防止等のため、安全管理措置として「基本方針の策定」、「取扱規程等の策定」のほか、次を講じなければならないとされています。
組織的安全管理措置 |
組織体制の整備、取扱規程等に基づく運用(利用実績記録など)、取扱状況を確認する手段の整備、情報漏えい等事案に対応する体制の整備、取扱状況の把握及び安全管理措置の見直し |
人的安全管理措置 |
事務取扱担当者の監督、 事務取扱担当者の教育 |
物理的安全管理措置 |
特定個人情報等を取扱う区域の管理、機器及び電子媒体等の盗難等の防止、電子媒体等を持出す場合の漏えい等の防止、マイナンバーの削除、機器及び電子媒体等の廃棄 |
技術的安全管理措置 |
アクセス制御、アクセス者の識別と認証、外部からの不正アクセス等の防止、情報漏えい等の防止 |
取扱担当者以外の人にむやみに見られることがないよう工夫が必要です。パソコンで管理している場合にはウィルスソフトの導入・更新、アクセスパスワードの設定を行います。データではなく紙などで帳簿等を管理する場合には鍵付きの棚や引き出しに保管する等情報漏えいへの対応をしなければなりません。
※ 6月初めに、日本年金機構におけるコンピュータウィルス感染による情報漏えいが明らかになり、大きな社会問題となりました。マイナンバー制度におけるセキュリティ課題について、企業に対して更に何らかの対応強化策を求められる可能性があり得ます。次の広報・普及啓発媒体などを参考に、今後の動きに充分注意願います。
マイナンバーホームページ:http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/
以上