「同一労働同一賃金」と高齢者雇用(3)

 

このシリーズの(1)で昨年5月の東京地裁判決が衝撃的なものであったとしましたが、少し詳しく見てみます。事件の概要は次のようなものです。

 

 

 

 

この件で、被告である会社の主張は、次の通り。高齢法に基づく再雇用であって、労働契約法第20条の適用を受けず、新たな労働契約として、労使合意で条件が定められるものであること、結果、水準が一定程度下がってもやむを得ないことだとします。定年前水準も他より高く、かつ、下げ幅も他の一般的な水準より小さく、定年後年金受給前の期間についても配慮している等の主張です。

 

 

判決は、本件が労契法20条の適用を受けるとし、合理性の判断基準である①職務の内容、②人材活用の仕組みと運用、③その他の事情のうち、特に重要な基準である①、②において定年前と後に全く差がないならば、「特段の事情」の有無が検討されるべきとしました。

 

 

そして、定年による賃金引下げ例は多く認められているが、①②が全く変わらないままで減額を実施するのは社会通念上相当であるとは認められないこと、会社の経営事情からしてコスト圧縮の必要性がないこと、労組との交渉経緯等から「特段の事情」も認められないとしたものです。

 

 

本シリーズ(1)でも触れましたが、判決文中に「賃金を定年前から引き下げること自体には合理性が認められるというべきである」とあります。裁判長としては、定年前後で、職務の内容、人材活用の仕組みと運用等が本当に「全く」同じだったのか…との疑問を持たれていたのかもしれません。単なる憶測ですが。

 

 

 

この判決をまとめた佐々木裁判長は労働審判官も務められ、20155月号のジュリスト「労働審判10年」でも座談会に登場されています。2-3年前に一度だけですが労働審判でご一緒させていただいたことがあります。穏やかで柔軟な発想を示されつつ、法律と事件記述を深く読み込まれることにすごさを感じたことでした。

 

 

今回の判決について、ある弁護士の方から、「その他」と「その他の」の違いを知ることが大切と教わり、インターネットで調べると、次の記事がありました。ご一読をお勧めします。元衆議院法制局参事吉田利宏氏の署名が入った短い記事です。

 

http://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=58394

 

 

 

ところで、この事件の控訴審は意外と早く結論を出しています。

 

 

世間一般に定年後再雇用者の処遇は定年前に比し相当程度下回ったものとなるが、同社の逓減水準は他より抑えたものとなっていること、経営状態についても本業を取ってみると赤字となっていること、減額するとしても一定の労働条件の改善がみられることとして、労契法違反はないとの結論です。

 

 

確かに、地裁判決に至るまでの各証拠と、口頭弁論等の記録等を事前にしっかり検討されているのでしょうから、第1回の口頭弁論で即結審されることもありでしょうが、逆転判決となれば、もう1-2回の弁論の場があっても良かったのでは、と素人的には感じます。上記したインターネット上の記事の趣旨とも違うようです。

 

原告側は上告したようですし、地裁判決の衝撃を一旦早期に抑え、最終判断を最高裁に委ねようとの意図が働いたのではないかと勘繰りたくもなりました。というのも、定年後の再雇用条件の争いとは異なりますが、昨年7月には、有期雇用契約と無期雇用契約との条件格差を争うハマキョウレックス事件の高裁判決が出され、これも最高裁へ上告されており、両事件を合わせて最高裁の判断に委ねるということもあり得ると思えるからです。いずれにせよ、今年中には司法の場で今何らかの判断が固まることとなるようです。

 

 

なお、裁判例では同一労働同一賃金について、あくまでも一企業内での労働契約における身分(無期雇用労働者か有期雇用労働者か)と処遇格差が争点となっています。

 

 

 

 

(続きます。)