「自転車通勤」のリスクと対策(1)

 本年311日、横浜市中区で開催された第22回神奈川県社会保険労務士会専門業務研究会で、私は自主学習会「労務診断部会」を代表して、「『自転車通勤』のリスクと対策」を発表し、幸い好評を得ました。以下に発表ストーリーを紹介します。

 

 自転車は手軽な乗り物だが、近年の技術革新により高性能で高速走行が可能となっています。

 他の交通用具との差異は

 ①免許不要なため交通ルールを知らない運転者が多いこと、

 ②自賠責保険がなく無保険走行が多いこと、

 ③例外的に歩道走行可だが、例外と思っていない輩が多く、徐行せず、ひやりとさせられることが多いこと

 などです。

 

 

 
 

 警察や地域行政などの安全教育活動、専用レーン等施設の充実などから、交通事故総件数・死者は漸次減少しています。自転車事故の傾向も同じです。

 

しかし、自転車が交通強者となる歩行者との事故件数は毎年2,500件を上回り横ばい傾向です。

全国で横ばいということは、減少傾向の地域がある一方で、増大傾向の地域があるということでもあります。 

 
 

 

高速走行可能な自転車が増えるに従い、危険運転の増加や事故の規模も大きくなる傾向があります。

 

このため、一昨年6月の道路交通法改正では危険な違反行為(14行為を規定)をして2回以上摘発された悪質自転車運転者は公安委員会による「自転車運転者講習」受講命令を受け、これに従わない場合は5万円以下の罰金が課されることとなりました。

  


 

 

行政による条例検討のきっかけとして、また損保会社による保険PRに採り上げられている高額賠償命令判決は上表の通りです。

 

 このうち平成257月の神戸地裁判決への注目度は特に高いのですが、これは、小学生が夜間女性と正面衝突。女性は意識が戻らず、というもので、保護者に9,521万円の賠償命令が言い渡されたというものです。 

 なお、平成174月の東京地裁判決は賠償命令に加え実刑判決であり、加害者属性については確認していませんが、会社員となれば、当該企業では解雇、懲戒処分を検討される事案でしょう。

 

 

 

 

 兵庫県では条例検討前の10年間で自転車事故が1.9倍に膨らんだとのことです。高額賠償判決もあり、被害者救済と加害者の経済負担の軽減のため、保険等に加入を義務付ける条例を2015年4月から施行しました。また、同時期に保険分科会で検討された「けんみん保険」を同年12月から発足させました。

 

 横浜でも自転車総合計画を策定しています。その策定過程で損保会社から「ひょうごのけんみん保険」と同等制度導入の働きかけがあり、同市交通安全協会を事務局に20164月から保険を発足させています。「ハマの自転車会」を窓口とする「ハマの自転車保険」です。

  なお、横浜でも金沢区の事故で平成17年に5千万円という高額賠償命令例がありました。

 
 

 

 自転車利用者の保険等加入を義務付ける条例施行が関西で進んでいます。昨年は大阪、滋賀で施行されました。大阪では平成26年に自転車がらみの死者は16名であったが、翌平成27年は50名。危機感があったと推測されます。京都でも付保率80%を目標とする計画が公表されています。

 関東でも、自転車の安全利用に関する促進条例は13県ですでに施行、又はこの4月に施行予定です。ただ、損害保険加入に関しては、関西が遵守義務としているのと違い、関東では努力義務となっています。なお、関東で安全利用促進に関する条例が制定されていないのは、我が神奈川県のほか、茨城、栃木の2県といった現状です。

 
 


自転車専用レーン、地下駐輪場の写真を展示しましたが、略します)

 

 県の指導もあったと聞きますが、大和市では損害賠償保険付き運転免許証を昨年10月に小学生に発行し、今年4月からは中学生にも広げるとのことです。結果9,000人が対象となります。これは全国で初めてとのことです。賠償保険に特化した全員加入の団体保険で、年間1人当たり1000円程度の保険料と格安です。

 賠償保険は契約者本人のみではなく同居の親族をカバーします。大和市の場合、すでに親族による事故の示談交渉1件が進行中とのことでした。 

 企業における自転車通勤への関心が薄いことは、発表者の経験からも言えます。しかし、事故の規模が大きくなり、高額賠償事例が増えている実態からすれば、今や、自転車利用通勤に関して企業としても無関心ではいられない時代だと考えられます。

 

以下次回につづく