AIによる人事労務管理の行方

パリオリンピックが開催中です。熱戦が繰り広げられていますが、TVでは審判の目だけに頼る「疑問の判定」につき、AIによる審判の必要性を訴えるコメンテータが多いようです。画像判定などは確かにAIの得意領域なのでしょう。

 

企業活動の面でも、採用から業務管理、業績評価、解雇に至るまで人事労務管理の全般にわたってAIが判定を下すような時代がすぐそこまで来ているかもしれません。

AIがネット上にある応募者のさまざまな属性や特徴から一定の傾向を抽出し、ビッグデータに基づき「科学的に正しく」採否を判定する。

日々の業務管理も、微細なモニタリングとデータ収集により、継続的な監視の下に置かれ、日々収集されたデータはその日のうちに分析されて、労働者の業績評価に用いられる。しかしその判断過程は外からは見えない。AIがどういうデータに基づいてどういう判断が下したのか、だれにもわからない。

「なぜ私の評価はこんなに低いんですか?」「なぜ私はクビなんですか」/「AIの判断だから私にもわからないけど確かだよ」といった塩梅に。

 

すでにウーバーやウーバーイーツなどのプラットフォーム労働の世界で現実化しているとのことです。仕事の依頼に何秒以内に対応したか、仕事の依頼をいくつ断ったかで細かく評価され、客先の採点で低い評価が続けば、アプリにアクセスできなくなってしまうとききます。

 

ところで、EUでは21世紀初頭来、従属的自営業に関する議論を開始し、21年からプラットフォーム労働に関する議論が本格化し、度重なる合意と破綻を経て、244月に、閣僚理事会の合意案を採択・決定したとのことです。

現時点でのEUプラットフォーム労働指令合意案の概要は次のとおり。(以下、濱口桂一郎氏の経団連での5月の講演内容から:経団連タイムスNo.3645掲載7/18発行)

 

適用範囲は、事業場の所在地、適用法のいかんを問わず、EU域内で遂行されるプラットフォーム労働を編成するデジタル労働プラットフォームとされている。EU域外に本社があっても、EU域内のプラットフォーム労働遂行者(プラットフォーム労働を遂行する者であり、雇用労働者と自営業者の双方を含む。うち雇用契約を有する、または有するとみなされる者を「プラットフォーム労働者」という。)を使用していれば、同指令が適用される。

デジタル労働プラットフォームとプラットフォーム労働遂行者との契約関係は「支配と指揮」を含む要素が見いだされる場合に、雇用関係があると法的に推定されることとなった。デジタル労働プラットフォームが法的推定に反論する際は、雇用関係にないことをデジタル労働プラットフォーム側が立証する必要がある。

 

アルゴリズム管理は、プラットフォーム労働に限定し定めている。例えば、(1)私的な会話や非遂行中の個人データ、差別根拠となり得るデータ等の処理の制限(2)自動的なモニタリングあるいは意思決定システムによる意思決定について、人間による監視・評価――などを求めている(募集・選抜から適用)。また、プラットフォーム労働遂行者は、自動的な意思決定システムによる全ての意思決定内容について説明を受ける権利を有する一方、デジタル労働プラットフォームには、アカウントの制限・停止・解除等について、理由を明記した書面の提供を義務付けている。

 

2年以内にEU各国の国内法へ反映させる期限が到来するだろうとのことです。